機能性ディスペプシアとは、別名を「ストレス性胃炎」とも言いますが、胃カメラ検査で、胃に特別な問題がないにも関わらず、胃の動きや消化能力が低下して、胃が張ったり、みぞおちが痛む病気です。「ディスペプシア」とは、日本語で消化不良を指す医学用語です。
ストレスと胃の関わりは、「ストレスで胃に穴があきそう」と言われるように、昔から精神的なストレスが胃を弱らせてしまうことはよく知られています。
日常の診療で、沢山の受診者さんが「胃の不具合」で来院されますが、原因は大きく2つに分けてご説明をしています。①胃カメラで胃を観察したときに、胃粘膜の炎症が強い、胃が荒れている時は急性胃炎、胃潰瘍を考え、②胃カメラで胃を観察してたときに、胃粘膜の炎症は殆どない状態なのに、問診などでストレスを慢性的に抱えている場合には、機能性ディスペプシアを考えています。
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアの原因はさまざまで、複合的なことが多いですが、最大の原因は、慢性的なストレスです。その他にも神経質な性質、食習慣、睡眠不足や過労、カフェインやアルコール、ピロリ菌の関与、体質などが要因としてあげられます。
- 胃の機能・運動低下:食後の動きが低下して、すぐにお腹いっぱいになる。ガスっぽくなります。原因としては、①ストレス、②細やかな性格、③長期に続く肉体疲労、④食生活の乱れ、⑤コーヒー、アルコール、刺激物の過度な摂取、⑥ピロリ菌感染、⑦感染性腸炎などがあります。
- 胃の知覚過敏
- 胃酸過多:少量の食べ物でも胃酸が多くですぎたり、通常量の胃酸であっても刺激を感じてしまうことがあります。胃酸の分泌が過剰になると十二指腸に胃酸が流れ込み、胃の運動機能を低下させるとともに、痛みや焼けた感じを引き起こすことがあります。
機能性ディスペプシアの症状と診断基準
機能性ディスペプシアは、ローマⅢ基準という診断基準があります。
胃カメラ(もしくはバリウム検査)で症状を説明できる腫瘍などの病気がなく、症状が3ヶ月以上であり、かつ6カ月以上前から下記の症状があるかどうかです。
- 苦痛に感じる食後の胃もたれ
- 少し食べただけでお腹がいっぱいになる(早期膨張感)
- みぞおちあたりが痛む(心窩部痛)
- みぞおちあたりが焼け付くように感じること(心窩部灼熱感)
機能性ディスペプシアの検査
機能性ディスペプシアは、「胃の不調の原因となる病気がないこと」が大前提です。絶対に避けなければいけないのが、「ストレスを感じているから、胃の調子が悪い」と決めつけて胃潰瘍や胃癌などの重大な問題を何も検査で確認しないことです。
当院では、胃カメラとピロリ菌の感染有無を行っています。
機能性ディスペプシアの治療
機能性ディスペプシアの治療は、受診者さまざまな角度から、お薬を組み合わせて処方しています。代表的なものとして、
- 胃酸分泌抑制薬(タケキャブ、ネキシウム、ガスターなど)
- 消化管運動機能改善薬(アコファイド、ガスモチン)
- 漢方薬(六君子湯など)、消化酵素薬(エクセラーゼ、ベリチームなど)
胃の不調には市販の胃腸薬を利用されている方も多く、実際に街中の薬局でも、おなか関係の薬は沢山の種類があります。しかし、症状や体質によって向いているお薬は異ななり、また長期の症状がある場合には、やはりクリニックで医師の処方された薬の方が効果は期待できることから、一度ご来院がオススメです。
また、機能性ディスペプシアの治療ではストレスや生活習慣の見直しが欠かせませんが、どうしても長年の生活習慣の改善には時間がかかります。患者さんは現在の不快症状によって辛い状態にあり、その症状自体がストレスとなってさらに状態が辛くなる悪循環をおこしていることも多くあり、初期から適切なお薬を組み合わせて治療を開始することが大切です。
機能性ディスペプシアと生活習慣の見直し
機能性ディスペプシアの治療では、お薬の治療や精神的アプローチとともに生活習慣の改善も欠かせません。胃の状態を整えていくためにも、ストレスに対応しやすくするためにも、生活習慣の見直しはとても重要です。食事はもちろんのこと、自律神経のバランスに関わる睡眠や生活リズムなどをトータルで整えていくことが大切です。習慣というのはなかなか変えづらいものですが、積み重ねは必ず良い結果として現れます。
食事の工夫と食事内容の改善は、下記の点を意識してみましょう
- 早食いをせずよく噛んでゆっくり食べる
- 3食もしくは4食に分けて1回の食事量は控えめにする
- できるだけ消化の良いものを食べる
- 脂っこいものや甘い物、香辛料など刺激物は控える
- 極端に冷たい物や熱い物を控える
食事の内容は、バランスが大切ですが、消化不良をおこしているときは繊維の多い生野菜の摂り過ぎも負担です。野菜は火を通した煮物などの方が消化は良くなります。
肉や魚は脂の多いものや繊維の多いものは消化に負担がかかるため、高たんぱく低脂肪の鶏肉や白身の魚がオススメです。また、近年は健康効果の高さからオートミールやグラノーラ、玄米や雑穀などを積極的に取っている方も多いのですが、やはり、これらは消化が悪い特徴がありますので、治療中は量を控えるか、中止がよいでしょう。